「鬼龍院花子の生涯」でもちらりと触れたけど
この小説の主人公多加のモデルは
吉本興業の創始者である吉本せいです。
吉本興業っつのは、女が作った会社なんですよ。
そこそこ裕福な家に生まれた多加が嫁いだ、船場の呉服問屋。
旦那になった男は、仕事に対する情熱や責任感なんかなくて
どんどんと傾いていく店を多加にまかせっきりにして
ただひたすら芸人と遊びまわってばかり。
ついに店が潰れたとき、多加は旦那に言う。
「あんたの好きな芸人の仕事をしよう」
つまりは小屋をたてて、興行主になろうとする。
旦那の遊び仲間の芸人たちを呼び集めて
小さな小屋を建てる。
そこから、多加の「ど根性商人物語」が始まる。
お客を集めるため、芸人を呼び集めるため、
そして先立つ売り上げをあげるために多加は奮闘する。
小屋の中で売る食べ物を仕入れ始めたり、
夏の冷やし飴の売り方を工夫したり、
当時にしては画期的なアイデアで、小さいながらも
商売は軌道に乗り始める。
しかし仕事ばっかりしてる多加を尻目に再び旦那は遊び始め、
ついには女の家で腹上死。
怒りと恥ずかしさと悲しさと、その中で多加は
「こうなったらとことん仕事をしてやる!」と決意し
更に彼女の孤軍奮闘が始まる。
多加の目のつけどころはほとんどがツボにはまり
めまぐるしいほどの発展をとげる。
全国でも「花菱亭」と言えば通ってしまうほど。
朝から晩まで、寝ても覚めても芸について考えて。
売り子や大物芸人の引き抜き方法なんて
「ようやるわ」と惚れ惚れしてしまうほど。
その中でふっと恋が芽生える。
相手は、お客として来ていた政治家の男。
だけど、お互い想いつつも最後まで近寄れなかった。
それは、多加が仕事にまみれて、女として最後まで
振舞えなかったせいでもある。
せっかくふたりきりになれたのに、
多加が話すことは仕事の話。
それにあきれた男が
「あんたは何を見ても商売にしか見えへんのやなぁ」と
あきれたように言えば
「そら、商売のことしか考えたことおまへんのやで」と返してしまう。
解説にも書いてあって中々興味深かったのが
恋愛と商売における大阪弁。
商売に関するやりとりは、大阪弁だと面白い。
特に関西圏以外の人から見ると漫才のような駆け引きだ。
だけど、恋愛になると漫才じゃ困るんだよねぇ。
もちろん多加という女性や、山崎豊子という恋愛モノを
書かない作家だからというのもあるんだけどさ。
(おせいさんの小説だと逆にほのぼのあったかくなるし)
小説だけど事実に近いものもあり
エンタツ・アチャコなんかはそのまんま出てくる。
ラジオが出始めて、芸人がラジオでしゃべってしまったら小屋がつぶれる!と多加が大騒ぎするところや通天閣買うとこも面白い。
給料の決め方や渡し方なんかは、
今でも吉本興業ってこうやってんのちゃうかな?
そして「暖簾」でもそうだけど、自営業というものの凄まじさ。
「わてみたいな商売人は、独楽みたいなもんで、回ってる間だけが
たってるので、動きが止まったら倒れますねん。
商人っていつまでたってもしんどいものです」
という多加の台詞。
自分が止まったら、この花菱亭は崩れてしまうんじゃないか。
そういう恐怖。
六本木ヒルズの住人の自伝もいいけど
「夢は起業★」という人は
この辺の「大阪ど根性商人物語」を読んでもいいかも。
そんな多加に、最後まで影になって支える男がいるんだけど
この男の存在が救い、というかわたくしにとってはツボでした。
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…って今、wikiで吉本興業調べてたら
岡村靖幸って吉本所属…そしてクスリで捕まった5月に契約終了…orz
しみじみとショックー
この記事に対するコメント
こんにちわ。
コメントありがとうございます。
へええ、その本、まだ未確認なんですが
ちょっと興味ありますねぇ。
紀伊国屋は梅田かしら??