地味な女子の読書とか映画とか。

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星野博美:転がる香港に苔は生えない

転がる香港に苔は生えない転がる香港に苔は生えない
星野 博美

文藝春秋 2006-10

おすすめ平均

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1997年7月1日、香港返還。その日を自分の目で、肌で感じたくて、私はこの街にやってきた。故郷に妻子を残した密航者、夢破れてカナダから戻ってきたエリート。それでも人々は転がり続ける。「ここは最低だ。でも俺にはここが似合ってる」。ゆるぎない視線で香港を見据えた2年間の記録。大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。



何回も何回も読んでいたので書くのが遅くなりました。
・・・というくらい何度も読みました。まだ買って2ヶ月たたないのにぼろぼろですわ。
やばいなー。今年1番!と言いたいとこだが、何冊あるんだ今年一番って。

この本は、前に「旅する広東語」の後ろの方にちょろりと紹介されていたので
表紙やタイトルはなんとなく記憶にあって、
ある日ふらりと本屋に寄ったときに、新刊の文庫で並んでたこの表紙と
目が合いましたよ。

で、そこからがっつり一気読み。
息つく間もないまま一気読み。

作者の星野さんは、大学時代、1980年後半に1年間、交換留学生として
香港で暮らした。
それから約10年後、彼女は再び香港の地に降り立つ。
1996年。香港がイギリスから中国に返還される1年前。
大学寮に住んでいた当時と違い、
今度は、香港の街で1人で暮らす。
ビザのため、語学学校に通いながらも、町を歩き、写真を撮る。
留学時代の友人の伝手を頼ったり、やがては流暢になる広東語、普通語、
英語を駆使しながら、彼女は香港で生活する。
そこで見聞き、体験した2年間。

取材旅行ではなく、生活するということ。
これがこんなにも味が出るものだということを
はっきり教えてくれる本は少ないような気がする。
世の中にはたくさんの旅行記があるし、
その旅行記の作者達の描く、ちょっとしたスリルや
カタコトでのちょっとした心の交流。
もちろん、それはそれで楽しいものだ。
でもそれは通り過ぎていくだけの視点であるということ。
それをがっつり教えてもらったような気がする。

大学生の頃、迷いこんだ九龍城のお菓子工場で働いていた阿彬。
彼を探していた彼女の元へかかってきた一本の電話。
そこから、大陸から出稼ぎに来て、適齢期を過ぎ独身のままの男たちの姿が
浮かび上がる。
彼女が留学した中文大学というところはエリートの輩出機関だけど
返還という激動の時代を前にして、同級生は様々な選択をした。
公務員になって香港で働くことを選んだ人。
そしてカナダのパスポートを取るために、カナダで5年間暮らすことを選んだ人。
阿強は、カナダで言葉も通じないアルバイト以下のような労働に従事して
ようやくカナダ国籍をとり香港に戻ってきたときには
もうそこには彼の居場所はなかった。
香港にいることを選んだ友人達はバブルの波にのり、出世しお金もちになった。
だけど、大学を出たのに5年間カナダでバイトをしていた彼は
香港に戻ったときには30歳になり、望むような仕事には就けなかった。
そして鬱屈した阿強は、星野さんにやり場のない怒りをぶつけ続ける。
彼の姿は本当に痛々しくて、自分に重なってしまう。ぅぅ。
お金持ちになって誰もがうらやむような生活をしている同級生カップルも
その心は複雑だ。
明日はどうなるかわからない。
そのためには、早く不動産を手に入れ、バブルの波に乗り
資産を増やさなければならない。
年金も、保険も、国の補償も全くないと言っていい、
そんな香港の生活。彼らは朝から晩まで働き続ける。
エリートも、街の片隅でひっそり暮らす庶民も。

香港に出稼ぎに出た夫に呼ばれて香港に来た劉さんと娘の肖連。
けれどそんな夫は家族が香港の地を踏む前に亡くなり、
劉さんは清掃の仕事と移民向けの生活保護を受けて暮らしている。
みんなががつがつと暮らしているような香港の街で
自分のペースで生きている劉さんの姿。
そして、突然大陸から香港に連れてこられ、香港っ子達とは
もちろん友達にはなれず、大陸の友人と文通している肖連。
「香港の子とは友達にはなれない。みんなお金を使う話ばっかりしてるよ」
「香港のこの家は中国のわたしの部屋より狭いよ」
「香港は図書館に本がたくさんあっていいね」
ちょっとした違い、大きな違い。
肖連の目に映る世界が、なんと新鮮なこと。

また、移民として稼ぎにやってきたけれど
家族を大陸に置いてきている王さん。
子供はなんとか移民できたけれど、奥さんの許可がおりない。
おりないから、密航を繰り返させる。
その力強い、でも心もとない姿。

香港の下町、深水歩(土偏に歩)に住むことにした星野さん。
閉塞感漂う、狭い部屋の窓からは、啓徳空港を離着陸する飛行機が
手の届きそうな近さで飛び交い、
近所の店が大音量で「夢のカリフォルニア」を流す。
・・・それって「恋する惑星」じゃないか!
・・・と思ったのだがこの「夢のカリフォルニア」はmamas&papasじゃないのね笑

語学学校で一緒のインド人のシスター達の世界感や
語学学校でのテキストにみんなで突っ込みをいれる様。
お金の話が好きで好きで、聞かれもせずともべらべらと喋り始める人々。
小さな、1間しかないような部屋に何人もの家族がすし詰めになって暮らす。
(これを読んだら「天使の涙」で金城武がおとんと一緒にベッドに寝てた謎がとけた)
自分の部屋なんて持ったことなければ、一人で暮らすなんて!想像の範囲外の人々。
一部屋あるならまだしも、一つの部屋の、三段ベッドのひとつだけが
自分の家、なんてこともありうる世界。
土いじりすらしたことない人々は高層ビルの上へ上へと願いをこめる。
そうやって、皆、生きている街。
まさに転がり続けていく街。毎日何かの選択が目の前にあって、
ぼーっとしていたら、明日はないような。

彼女が家を決めるきっかけになった深水歩の
茶贅庁で働く美少年、子俊。
彼と、またそこで働く人々との交流がほんまに暖かくて泣けてくる。
いいなぁ、毎晩、ここでミルクティー飲むの。
彼らは本当に、大事なセリフをきちんと話す人たちなんだなぁと思う。
このてらいのないストレートさに惚れ惚れとしちゃう。

とにかく書いてたらきりがないくらい、
素敵な場面がいっぱいだ。
それは、一瞬で通り過ぎるはずの景色を
何度も繰り返すことで、作り上げられる信頼の世界なんだろう。
数日通っただけじゃ、彼女は子俊には話し掛けられないままだっただろうし
肖連の心も、香港になれていくことの変化も見れなかっただろう。
王さんも、突然朝っぱらから電話かけて呼び出してくることもないだろう。
皆、彼女に心を開く。
最終的に彼女は写真家でありノンフィクションライターだから
こういう形で仕事にしたけれど
彼らに対し、「取材」という立場では接してない。
「友達」だ。「友達」だから、皆、普通に話すんだ。色んなことを。
その話を聞くために、彼女は広東語を習う。
エリート達は英語や普通話を喋るけれど、街の人々は広東語しか話さない。
その声を耳にするために。
生活の話をお互いするために。
その「生活」はどの階層の人間でも、きらきらと原色の活力だ。

いやぁ、いい本だよなぁー
あと何回読むだろう。今年中に2回はいけるなぁ・・・
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この記事に対するコメント

前に『銭湯の女神』は読んだんですけどこっちも面白そうですね。今度読んでみます。
SLASH | 2006/12/12 9:46 AM
SLASHさんって予想外のところでひっかかってくるよねw
「銭湯の女神」読みましたか。ほほう。

っていうか今度といわず
明日にでも本屋に走るように。
そして感想を述べてくれ。
・・・まじで良いから、ほんまにーー。
「銭湯の女神」読んでるなら、是非。

うたぎく | 2006/12/12 11:00 PM
>「銭湯の女神」読みましたか。
中野翠氏がコラムで紹介していたので興味を持ったのですよ。私はこの人の書評を贔屓にしているのです。文庫版の解説、この人でしたね。
あと読んだあとに知ったことですがジャーナリストの日垣隆氏(←この人の本も面白いです。装丁やタイトルはいまいちなのが多いけど)も褒めてたし。「この人、屈折しまくっているんじゃ全然なくて、とびきり真っ直ぐなのだと思う」のだそうです。

>明日にでも本屋に走るように。
e-honで注文しましたよ。あ、「なぜこのブログを経由してamazonで買わない!?」てなもんでしょうがなんせ送料がですね・・・。
SLASH | 2006/12/13 3:23 AM

>「この人、屈折しまくっているんじゃ全然なくて、とびきり真っ直ぐなのだと思う」

あー、そうなの。そうなの。そんなかんじ。
飾りもなくて、まっすぐ。
だから(?)日本では生きにくそうだなぁ・・・と思ったりする。
「銭湯の女神」は1つ1つが短いでしょ?
でもこれはずーっと2年間の日々が続いていくから、また別の面白さがあるよ。
この人が過ごした2年間を全て知りたいと思わせるような。

>、「なぜこのブログを経由してamazonで買わない!?」

そうだよう。なんで買わないんだよう。笑
この文庫高いし、あと1冊くらい文庫足したら送料無料になるじゃないかよう。
なんてね。お気遣い多謝〜


うたぎく | 2006/12/13 10:33 PM
はじめまして、実はブログ楽しみに読んでおります。
転がる香港に苔は生えないは私も大好きな作品です。
で、最新刊が出たようなのでお知らせだけ・・・
とも | 2007/02/15 12:31 AM
■ともさん

ありがとうございまするぅぅう(つд`)
頑張って更新しますので
末永くよろしくお願いいたします。

そうそうそう!最新刊!
明日アマゾンで注文したら土・日に楽しめるかしら・・・これまたうっとりしそうな内容だもんなぁ。


うたぎく | 2007/02/15 11:06 PM
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